August 24, 2010

振り返る夏 振り返らない夏

夏の楽園だったあの広い家で、
誰のものでもなかった私(※)が笑ってる。
細い体を真っ黒に日焼けして、泣きべその子分を従えて、
アブラゼミや真っ青のアゲハチョウやらを追い回す。
疲れて昼寝。そしてまた転げまわる。長くて短い夏の日。
全てがあの家にあった。

***

猛暑は依然として続いている。
8月はまだ一週間ほども残っている。
私は寝ても覚めても夢ばかり見ている。気がする。

***

盆休みは古い友人に会ったりする機会が多く
自然、昔話で懐かしむという流れにもなるけれど
そのほとんどを自分が記憶していないことに少し愕然とする。
かたまりとしてはなんとか思い出せても、細部はもう、全滅。
そんなことあったっけ?の連続。
思い出に限らず本や映画にしても正確なストーリーや登場人物の名前
まで覚えて
いるものは本当に一握りしかない。残念なことに。

***

夜、コンビニに立ち寄る。
殺虫灯に吸い寄せられては焼かれる羽虫たちを見る。
前しか見えない、前にしか進めない、振り返ることができない、
そういう小さきものたちは必死で暗闇の中に標を探すしかない。

***

涙を流す人を前にして
泣いている理由なんて考える必要はないと思う。
涙はただ、いつなんどきでも流れるものだ。
流れることが、自然なことだ。

***

家の裏手からまっすぐ田んぼへと続く道路は
日差しがアスファルトを焼き、陽炎が立っていて、
両脇には若い穂を付けはじめた稲がどこまでも緑色に波打っていた。
幼い私の目には本当の海のように果てしなく映った。
音もなく、誰もいなかった。ひとりきりだった。
その“ひとりきりだった”という感覚を死ぬまで失いたくないと思う。

(※)『すみれの花の砂糖づけ』江國香織



先日DEMELでひとめぼれして
買ってしまいました。
なんて罪なパッケージ・・・。

No comments:

Post a Comment